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"大衆演劇が在る状態"が好きなので

2016年1月26日 お芝居「追われゆく女」下町かぶき組 劇団悠@木川劇場

劇団悠 大衆演劇

2016年1月26日 劇団悠@木川劇場大阪市淀川区)お芝居は「追われゆく女」

好きなところがたくさんあるお外題。2回目です。展開がわかっているので、好きなシーンが来るのを待ち構え(笑)、噛み締めながら見入っていました。

 

(あらすじ)

「女郎」として働いていた女性が、年季が明けて故郷に帰ってきたとき、家族や村人とのあいだで起きた出来事を描いた人情劇。(1幕2景)


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主演・松井悠座長@ラストショー「さくらさくら」

第1景 村のはずれ

明治時代(?)のとある村。若者たちが、一人の男から話を聞いている。

「横浜の本牧へ行ってきたんだ。本牧ってえと『女郎』がいっぱいいるところだよ。そこで誰に会ったと思う?お千代ちゃんだよ。あの綺麗な姉ちゃん。一郎のやつ、『ねえちゃんは料亭で働いている』って言ってたけど、嘘だったんだ。俺らを騙してたんだ」

そこへ、一郎がやってくる。話を聞いて驚く一郎。

「嘘だ」

「嘘なもんか。この目で見たんだ。嘘つきの汚ねえやつらだ。おまえら一家は村八分にしてやるからな」と捨て台詞。呆然とする一郎。

 

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 一郎役 嵐山錦之助さん

 

第2景 お千代の家

家では、母が千代の帰りをいまかいまかと待っている。

村に汽車が着く時刻。お千代がバッグ1つ抱えて帰って来る。色白のうつくしい女。田舎には不似合いな、垢抜けて、香り立つような風情。

懐かしみながらうれしそうに家のなかを見回すお千代を、涙を流し、ねぎらう母。

 

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母役 高野花子さん

 

その横で、一郎は「汚い商売をしてきた」姉を受け入れられず、目を合わそうとしない。妻のまさこも同調している。

 

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一郎の妻まさこ役 なおとさん

夢にまでみた帰郷に、暗い影が落ちる。。。

しかし、そんなお千代を、母以外にもう1人、歓待するものがいた。

「くにちゃん」。

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噂を流した村の男役・駿河染次郎さん(左)、くにちゃん役・高橋茂紀さん(中央)、母役・高野花子さん(右)

知的障害のある青年で、親が亡くなってから天涯孤独、ほったて小屋で暮らしている。村のひとが不憫に思い、かわるがわるご飯を運んでいるらしい。

 

そのくにちゃんが、粗末なシャツと半ズボンを着て、お千代の家に駆けつけ、飛び上がらんばかりに喜んで言う

「お千代ちゃん!おかえり!おいら、お千代ちゃんのために魚をとってくるから、待っててね!」 

 

お千代は、10年前、流行病にかかった一郎の薬代を得るために、みずから苦界に身を沈める決意をし、家を出ていったのだった。

知らされていないとは言え、「汚い」と罵る一郎を、お千代は、一度も責めようとせず、連れ合いが病にかかって薬代が要ると言ってやってきたまさこの父親に、貯金を全部渡そうとまでするのだったーー

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まさこの兄役 藤千之丞さん この日の個人舞踊「たまゆら」うつくしかった~

 

"男の極楽 女の地獄"を生きて

1時間15分のお芝居。

このブログでも何度も言うてますが、悠座長演じる女性には、強く惹かれます。辛い時代、過酷な運命をひたすら受け入れるしかない弱い立場ながらも、誇りと優しさを忘れない、芯の強い女性。

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お千代は言います。

遊郭は、男の極楽、女の地獄。死にたい。死のうと思った。そんなとき、お父っつぁんから手紙が届いたんだ。一郎が治ったって。お前のくれたお金で薬が買えたって。うれしかった。こんなわたしでも役に立ったと思ったら、耐えられたーー」 


これ、けっして、むかしばなしではないんですね。

お千代と同じように、家族のために身を犠牲にして買春街で働いたタイの女性が、故郷に戻れば「汚れた女」と扱われたと、同国で自立支援活動をする弁護士さんからの報告のなかで聞き、凍りつきました。

今回は、一度見て展開を知っているので、お芝居のはじまりのほうで、村に帰ってきたお千代が、うれしそうに家に向かう姿を見ただけで、ボロボロ泣いてしまいました。このあとのお千代を待つ冷たい仕打ちを思うと、少女のように無邪気に笑っているお千代が、痛ましくてならなかったから。

 

 

「くにちゃん」のこと

もう1つ、このお芝居の重要人物「くにちゃん」のこと。

わたしは障害福祉の仕事に関わっている者で、このお芝居を初めて見たとき、びっくりしたんです。

くにちゃんが、自立して暮らしていること、

村の人がかわるがわる世話をしていること(共助)が、描かれていることに。

 

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福祉」という言葉がなかった時代に、万全ではないにしろ、障害のあるひとが村の中で、生きていくことができていた。

お芝居中にも表現されていますが、村人がバカにして、今でいうところの差別用語を投げかけますが、一緒に生きていたんです。

ここ、ものすごく大事。

 


「あほやけど、ノリオ」

「あほやけど、ノリオ ダウン症のアニキをもって」という本があります。
(露の団六(落語家)さん著・中央法規出版 2004)

www.chuohoki.co.jp

 

「お前んとこのアホの兄貴、どうしてる?」

友達が、著者にそう聞くのだそうです。

「アホ」という言葉のどぎつさにひっかかって、その友達が、真から「ノリオ」を心配していること、彼の生活のなかに「ノリオ」が存在していることを、見過ごしてはならない。

1950年代、神戸で生まれた兄「ノリオ」。

当時、「ダウン症」という言葉も、「知的障害」という言葉も、一般的でなかった。「普通と違う子」を「アホ」というしか、なかったーー

言葉は乱暴ではあるけれど、「障害者差別」を考えるときに、まずは「認識」することから、始まると思っています。

一緒に生きることは、きれいごとでは済まない。いちどは泥試合を通過しないと、たどり着けない、「共に生きる世界」です。

そのことが、大衆演劇のお芝居のなかで、「さらっと」描かれていることに、ほんとうに驚きました。

しかも、このお芝居では、知的に障害をもつ青年「くにちゃん」がキーマンで、かつヒーロー!なんです。

演じるは高橋茂紀さん。

「お千代ちゃんは、お千代ちゃんだあ」ーー

辛い場面がつづくときに、くにちゃんが登場したとたん、ぱっと明るくなり、お客さんもほっとして、待ってましたと拍手で迎えます。

 

 

辛い経験がひとを優しくさせる

もっとも弱い、侮蔑される立場の人間が、ひととして踏みとどまり、相手をいたわる行動をとり続ける。

それは、うわっつらの道徳観念からじゃなく、過酷な経験をした人間にしか分からない、辛さ、痛みが、目の前にあると、放っておけないから。

 

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自分だったら果たしてどうかと、突きつけられて、胸がギリギリと痛みます。

最後、花道をはけるお千代を、泣きながら(ほとんど号泣)見送りました。

悠座長演じる女形のなかで、個人的に一番好きなのがこのお千代で、いろいろな方に観ていただきたいと思うお芝居です。

 

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「高橋茂子ショー」付き人のボケに茂子センセイ大暴れ

 
劇団悠公演の予定は

2月 八尾グランドホテル(大阪府八尾市)

3月 弁天座(奈良県大和高田市

4月 みかわ温泉(愛知県) 

5月 木川劇場(今年2回目!)

とのことです。しばらく関西公演がつづいてうれしいなあ

 

 

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